【英国見聞録 No.6】ロンドン地下鉄の運賃制度とオイスターカード

しばらく記事をご無沙汰にしてしまいましたが、今回はロンドン地下鉄の運賃制度についてお話ししたいと思います。

ロンドンの地下鉄は、言わずと知れた世界の地下鉄の先駆け。
その開業当初は、蒸気機関車が客車を牽引するスタイルで、みな煙にまみれながら利用していた、なんて有名なエピソードもある、都市交通改革のパイオニアですね。

London Tube - チューブ…ロンドンの地下鉄
ロンドンの地下鉄は「チューブ」という愛称のとおり、
古い線区では小断面のトンネルに合わせた形状の車両を使用している。
ベーカールー線ウォータールー駅にて

都市高速道路が整備されていないロンドン中心部にあっては、高頻度定時運転の地下鉄は現在でも市民の欠かせない足であり、日々多くの人に利用されています。
いまだに吊り掛け式の電車が多く走るのも、てっちゃん的魅力だったりします。

その出改札業務を簡素化するために、ロンドンにも、日本のSuicaに続いて登場した「オイスターカード」という非接触式ICカードが存在します。
基本的な仕様はSuicaに似ており、現金やクレジットカードでカードにチャージ(現地ではトップアップという)をし、その残額を用いて乗車するという設計は変わりません。

Oyster Card - オイスターカード
オイスターカードと自動改札機。黄色いところがカードの読み取り部分。
自動改札機はオフィスビルの入館ゲートに似たシンプルな形状をしている

さて、このロンドンの地下鉄の運賃ですが、日本とはまったく違う形で運賃を計算します。その大きな特徴を挙げると、次のようになります。

1.各駅を地域(ゾーン)に分け、どのゾーンからどのゾーンへ乗車したかによって運賃を決定する
2.IC運賃ときっぷ運賃の差は、日本以上に歴然
3.ICカードを使用した場合、キャップ機能で引去り上限額以上は自動的に引去られない

詳しく見ていきましょう。


1.各駅を地域(ゾーン)に分け、どのゾーンからどのゾーンへ乗車したかによって運賃を決定する


日本では、一部の均一運賃導入線区を除いて、鉄道の運賃はすべて100m単位の営業キロを基準にして計算しています。
「乗った距離だけ運賃を払う」という考え方は、路線網が入り組んでいない線区では大変合理的ですが、首都圏や関西圏のように、多くの路線が複雑に入り組み、目的地への経路が無数に存在するような区間では、出改札いずれをとってもあまり賢明とはいえません。

世界初の地下鉄だけあり、ロンドンの地下鉄も相当複雑に入り組んだ路線網をしています。
そのため、運賃収受を合理化するために、都心部からの距離で駅を複数の「ゾーン」に分け、ゾーン間にそれぞれ運賃を設定することとしています。
ロンドン中心部は「ゾーン1」となり、郊外に行くにしたがって「ゾーン2」、「ゾーン3」…と数字が増えていきます。
なお、運賃の割高感を低減するため、一部の駅は複数のゾーンにまたがって設けられていることもあります。

2.IC運賃ときっぷ運賃の差は、日本以上に歴然


日本では、2014年4月の消費税増税を機に、JR東日本エリアでICカード用1円単位運賃が設定されました。
この運賃制度や運用に当たっては賛否両論がありましたが、実際のところ、10円単位運賃(きっぷ運賃)は1円単位運賃の1円部分を切り上げないし四捨五入して算出しているにすぎないため、その差は最大でも9円と微々たるものにはなります。

ロンドンの地下鉄運賃は、そうはなりません。

先にご紹介した、オイスターカード等の非接触式カードを使った場合の運賃(注 執筆日時点)ですが…


例)ゾーン1内各駅相互間で乗車した場合
  IC  2.40ポンド(約320円。ただし執筆当時のレート、以下同)
  きっぷ 4.90ポンド(約660円)

なんときっぷ運賃はICの2倍以上。
日本でたかが最大9円の差を騒いでいたのとは比較にならないくらいの差ですね。
ロンドン市民は、それを承知で、ほぼ全員ICカードで乗降しています。

ちなみに、イギリスの鉄道運賃の刻みは10ペンス(0.10ポンド)です。
ポンド通貨の最小取引単位は1ペンス(0.01ポンド)ですから、日本でいう10円単位運賃と同じようなイメージといえるでしょう。
「IC決済なら単位が細かくても問題ないだろう」と1円単位運賃を断行した日本とは大きな違いです。

3.ICカードを使用した場合、キャップ機能で引去り上限額以上は自動的に引去られない


オイスターカードには、日本のIC乗車券にはない強力なシステムがあります。

それが、この「キャップ」機能にあります。


簡単にその機能をご説明いたしますと、

「その日利用したゾーンと時間帯に応じて、SFの引去り上限額を設定し、その上限額に達した場合、それ以上はSFを引去らない」というものです。


ゾーンと時間帯別のキャップ額一覧はロンドン交通局サイトに掲載されています。

http://content.tfl.gov.uk/adult-fares.pdf


たとえば、ロンドン都心部「ゾーン1」のみを利用した場合のキャップ額は時間帯に関係なく6.50ポンドです

同区間のIC普通運賃が2.40ポンドですので、3回乗車するとこのキャップ額に達し、それ以上は引去られなくなります。


一日乗車券を買って元が取れるかどうかを迷ったり、いざ乗車した後でその乗車券では損をすることがわかったりしたというご経験はどなたもおありかと思いますが、オイスターカードにはICの利点を活かしてその心配をさせない強みがあります。


なお、オイスターカードとは別に一日乗車券(トラベルカード1日用)も発売されていますが、その発売額はオイスターによるキャップ額と同額もしくは高く設定されていますので、短期間の利用であればオイスター利用のほうが断然お得になります。

(連続5日間以上の長期にわたり利用する場合は、定期券タイプのトラベルカードが1週間からの有効期間で発売されていますので、こちらのほうがお得になってきます)


London Tube - チューブ…ロンドンの地下鉄
「ロンドン交通庁は非営利です。
なぜなら収入はすべて運行とサービスの改善に使われるからです」
…と言われても、日本人には高すぎる、イギリスの物価であった

London Tube - チューブ…ロンドンの地下鉄
イギリスでは、エスカレーターは「右に乗り左を空ける」大阪方式。
そもそも今の日本ではエスカレーターを歩行することを事業者として推奨しないので、
こういったところに安全と責任問題に関する意識の差が垣間見える


その他、オイスターカードのうれしい機能たち


オイスターカードにもデポジット制度があり、その額は3.00ポンド(約400円)です。

カードの購入、チャージともにクレジットカードが利用でき、クレジットカードでチャージする方法が限られている日本の後進ぶりが目に見えてきます。
(日本の後進ぶりといえば、ほかにも言葉の壁だのWi-Fi環境が貧弱だの色々あるのは承知の上ですが本稿の筋ではないので省きます)

日本の交通系ICカードにない特徴として、残額が10ポンド以下のときは券売機を旅客が操作するだけで残額のみの払い戻しを受けることができます
この点も、短期滞在者のオイスターカード導入を後押しする、日本より進んだサービスといえるのではないでしょうか。
私も、オイスターを使い倒したあと、ヒースロー空港の駅の券売機で残額を全部現金に戻しました(カードの購入やチャージをクレジットカードで行っていても現金戻しとなります)。

London Tube - ロンドンの地下鉄
地下鉄の駅にある券売機。
チャージの際は決済の前後でそれぞれカードをタッチするというのが少々面倒。
ただ、どこでもクレジットカードが使えるというのは大変便利である。
ちなみに、一応日本語での画面表示も可能

日本の鉄道界は、実務の面でも趣味の面でも、どこか「温故知新」のうちの「知新」が抜けているような印象が否めません。
年間訪日外国人2,000万人の時代。そしてまだまだと思っていながら実はもう目前に迫っている東京五輪。
彼ら、ひいては私たち日本人も、よりわかりやすく親しみやすい制度とサービスが確立されればと、切に願います。



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てつた

Author:てつた
KR鉄道館

元駅員さん。
社会人2年目の、法学部卒
へっぽこ新米プログラマー。
たまには旅に出たい。

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